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Q5.労働者災害補償保険法による労災補償給付と民事上の損害賠償

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公開日:2020.02.19

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Q5.労働者災害補償保険法による労災補償給付と民事上の損害賠償


労災保険給付が行われた場合、会社は被災従業員に対し、もう損害賠償をしなくてよいのでしょうか。労災保険給付と安全配慮義務違反の損害賠償の関係を教えて下さい。
A.回答

業務中の事故等による被災というと、真っ先に思い浮かぶのは労働者災害補償保険法による労災補償給付(いわゆる「労災」)です。では、この労災補償給付と民事上の民事上の安全配慮義務違反としての使用者への損害賠償責任とはどのような関係にあるのでしょうか。会社は両者の関係を正しく理解しておく必要があります。
 

労働災害の被災労働者又はその遺族は、労災補償ないし労災保険給付を請求できますが、使用者に対しても損害賠償請求を行うこともできます。もっとも、それでは被災労働者は、損害賠償を二重取りできることになってしまうため、労災補償・労災保険給付と損害賠償との間では一定の調整が行われています。  

具体的には、労災保険法に基づく労災保険給付が被災労働者に行われた場合には、使用者は労働基準上の災害補償責任を免れることになります(労働基準法84条1項)。使用者により災害補償がなされた場合、同一の事由についてはその限度で使用者は損害賠償責任を免れます(同条2項)。労災保険給付が行われた場合にも、労基法84条2項を類推適用して、使用者は同様に保険給付の範囲で損害賠償責任を免れることとなります。つまり、会社としては、労災保険給付がなされた場合には、その限度で、被災労働者に対する損害賠償義務を負わなくて済むことになるのです。

もっとも、労災保険給付による補償と、民事上の損害賠償請求では、その範囲が同じではありません。民事上の損害賠償請求の方が範囲が広くなっています。損害項目を比較すると以下のようになっており、労災保険給付の方は慰謝料などが含まれておりません。そこで、会社としては、労災保険給付が認められた場合でも、なお高額な損害賠償義務を負わなければならないこともあるため注意が必要です。

以上見てきたとおり、安全配慮義務の問題は、業務上のあらゆる場面で問題になるにもかかわらず、そもそも安全配慮義務の内容、どのような場合に義務違反となるのかの画定が難しく、労働安全衛生法、労働災害給付といった似て非なるものとの混同が生じやすいため、会社にとっては正しく捉え、理解することが難しい分野です。

だからこそ、会社内部だけでなく、弁護士、社会保険労務士、労働安全コンサルタント等の専門家と日頃から密にコンタクトをとり、その会社、業務にとってどのような予防策を講じるのが良いのか、また、問題が生じてしまった場合にどのようなリスクが生じるのかといった点を確認されることをおすすめいたします。
 なお、当法人では、会社からのご依頼があれば、安全配慮義務に関するセミナーを開催させていただいておりますので、お気軽にご利用いただければと存じます。

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