安全配慮義務違反
製造業など、工場を持つような会社であれば、作業中の事故による安全配慮義務違反は常に発生し得る問題です。もっとも、事故だけでなく、実際には安全配慮義務違反は、業種を問わず企業活動におけるあらゆる場面で問題となります。
セクハラ・パワハラといった各種ハラスメントも安全配慮義務違反が問題になりますし、過労死、過労自殺といった場面でも安全配慮義務違反が問題になります。
安全配慮義務違反の問題が生じた場合には、会社は従業員や遺族から高額な損害賠償請求を受けますし、過労自殺や重大事故の場合には報道もされてしまうため、その対応、予防は極めて重要になります。
しかし、安全配慮義務、安全配慮義務違反とは、そもそもつい最近まで法律にも規定が存在せず、会社の安全対策を定めた法令と安全配慮義務の関係もはっきりしないなど、会社の労務担当者にとっては分かりにくい概念となっています。
安全配慮義務違反の弁護士相談「お悩みの声」
「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」(労働契約法5条)
安全配慮義務とは、労働者が就労するにあたり、使用者が労働者の生命や健康を危険から保護するよう配慮すべき義務をいいます。もっとも、労働契約法制定・施行(平成20年)以前には、安全配慮義務を明文化する規定は存在せず、判例上、民法の規定である信義則(民法1条2項)を根拠に安全配慮義務を認められていました。そのため、労働契約法に明文化された現在でも、過去の判例が解釈の拠り所となっており、安全配慮義務違反を考察するには過去の判例を検討することが最も重要になります。
明文化の契機となった判例として、最判昭和50年2月25日(陸上自衛隊八戸車両整備工場事件)、最判昭和59年04月10日(川義事件)が有名です。
最高裁判例は、安全配慮義務を、使用者が事業遂行に用いる物的施設(設備)および人的組織(設備)の管理を十全に行う義務と把握しています。 しかし、安全配慮義務の内容は一律に定まっているものではなく(労働契約法5条にも具体的な内容が定められていません。)、「労働者の職種、労務内容、労務提供場所等安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によって異なるべきもの」(前述の川義事件)となり、ケースバイケースの判断となります。
これまでの裁判例の蓄積からすると概ね以下のように分類することができます。
物的措置 | 人的措置 | |
作業の管理 | 健康面の管理 | |
・作業の場所、施設、機械の安全化 ・作業環境の整備、改善 ・機械等の安全装置の設置、保護器具の提供と使用 | ・有資格者の選任、配置 ・安全衛生教育の実施 ・作業マニュアル作成、十分な研修の実施 ・労働時間、休憩時間、休日の適正管理 | ・健康診断、ストレスチェック等の実施 ・作業の健康面への影響の調査 ・必要に応じた業務軽減措置等の実施 |
会社が特定の業務においてどのような安全配慮義務を負うかは、後述する労働安全衛生法の厚生労働省の省令を指針にしつつ、労働安全衛生コンサルタント等の助言を得ながら正しく理解し、義務を果たせるように対応していかなければなりません。
安全配慮義務を負うのは、「法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間」(前述の陸上自衛隊八戸車両整備工場事件)となります。
したがって、労働者との関係では基本的には使用者ということになりますが、元請事業者と下請事業者の労働者間(最判平成3年4月11日(三菱重工造船所難聴事件))、出向先と出向元の労働者間(広島地判平成12年5月18日(オタフクソース・石本食品事件))、出張先と出張元の労働者(名古屋地判平成20年10月30日(デンソー(トヨタ自動車)事件))、製造業の企業と業務請負業者の労働者間東京地判平成20年2月13日(テクノアシスト相模(大和製罐)事件)、業務委託者と個人受託者間(大阪地判平成24年6月8日(DNPメディアテクノ関西事件))等、過去の裁判では、安全配慮義務を負う者の範囲については広く認められています。
会社としては、自社の従業員だけに配慮すれば良いという訳にはいかないため要注意です。
労働安全衛生法とは、労働基準法と相まって、労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とした法律です。
具体的には、安全衛生管理体制、労働者の危険又は健康障害を防止するための措置(具体的内容は、技術的細部にわたることも多いため、大部分が厚生労働省令に委ねられています。)、機械等並びに危険物及び有害物に関する規制、労働者の就業に当たっての措置、健康の保持増進のための措置などが定められています。
安全配慮義務=使用者が労働者に対し負う義務
労働安全衛生法上の義務=使用者が労働者のために国に対して負う義務
※労働安全衛生法上の義務≠安全配慮義務
もっとも、安全配慮義務の内容は不確定、不明確であり、これを事実上具体化しているのが労働安全衛生法であるため、実質的には労働安全衛生法上の義務≒安全配慮義務となります。ただし、労働安全衛生法上の義務よりも安全配慮義務は広いため、最低限の安全配慮義務が労働安全衛生法上の義務ということになります。
※労働安全衛生法違反≠安全配慮義務違反
もっとも、安全配慮義務の内容を事実上具体化しているのが労働安全衛生法であ るため、労働安全衛生法違反≒安全配慮義務違反となります。
少々分かりにくいですが、両者は別物ですが重なり合っているため、まずはより明確な規定である労働安全衛生法及び厚生労働省の省令を遵守することが重要です。
業務中の事故等による被災というと、真っ先に思い浮かぶのは労働者災害補償保険法による労災補償給付(いわゆる「労災」)です。では、この労災補償給付と民事上の民事上の安全配慮義務違反としての使用者への損害賠償責任とはどのような関係にあるのでしょうか。会社は両者の関係を正しく理解しておく必要があります。
労働災害の被災労働者又はその遺族は、労災補償ないし労災保険給付を請求できますが、使用者に対しても損害賠償請求を行うこともできます。もっとも、それでは被災労働者は、損害賠償を二重取りできることになってしまうため、労災補償・労災保険給付と損害賠償との間では一定の調整が行われています。
具体的には、労災保険法に基づく労災保険給付が被災労働者に行われた場合には、使用者は労働基準上の災害補償責任を免れることになります(労働基準法84条1項)。使用者により災害補償がなされた場合、同一の事由についてはその限度で使用者は損害賠償責任を免れます(同条2項)。労災保険給付が行われた場合にも、労基法84条2項を類推適用して、使用者は同様に保険給付の範囲で損害賠償責任を免れることとなります。つまり、会社としては、労災保険給付がなされた場合には、その限度で、被災労働者に対する損害賠償義務を負わなくて済むことになるのです。
もっとも、労災保険給付による補償と、民事上の損害賠償請求では、その範囲が同じではありません。民事上の損害賠償請求の方が範囲が広くなっています。損害項目を比較すると以下のようになっており、労災保険給付の方は慰謝料などが含まれておりません。そこで、会社としては、労災保険給付が認められた場合でも、なお高額な損害賠償義務を負わなければならないこともあるため注意が必要です。
以上見てきたとおり、安全配慮義務の問題は、業務上のあらゆる場面で問題になるにもかかわらず、そもそも安全配慮義務の内容、どのような場合に義務違反となるのかの画定が難しく、労働安全衛生法、労働災害給付といった似て非なるものとの混同が生じやすいため、会社にとっては正しく捉え、理解することが難しい分野です。
だからこそ、会社内部だけでなく、弁護士、社会保険労務士、労働安全コンサルタント等の専門家と日頃から密にコンタクトをとり、その会社、業務にとってどのような予防策を講じるのが良いのか、また、問題が生じてしまった場合にどのようなリスクが生じるのかといった点を確認されることをおすすめいたします。
なお、当法人では、会社からのご依頼があれば、安全配慮義務に関するセミナーを開催させていただいておりますので、お気軽にご利用いただければと存じます。
会社側の労働問題・労務に関わる相談は全般的に対応可能です。
労働問題のご相談方法・相談料金について
当事務所は、下記4つのご相談方法をご用意しております。
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