就業規則作成

1 就業規則を作る意義

経営者の皆様は,就業規則を作る意味をどのように捉えているでしょうか?
常時10人以上を使用する事業場では,就業規則を作成・届出し,事業場内で周知することが労働基準法において義務付けられていますから,「義務」なので作るものとだけ考えている方もいらっしゃるかもしれません。

また,従業員を雇っていない又は10人より少ない人数を使用している事業場では,「義務がないから作成しなくてもいい」と考える方もいるかもしれません。就業規則は,労働者の採用から退職に至るまでの処遇,守るべき職場規律について定めることで,労使間における約束事を決めておくことで,無用な労使間トラブルを回避できるメリットがあります。

インターネット等で出回っている一般的なひな形を使って作成することも可能ですが,内容をよく精査せずに「就業規則」を作っていたという経営者の皆様は,今一度,それぞれの事業場の働き方に適した内容になっているのか,再考してみてはいかがでしょうか。

当法人では,日常的に,労使間紛争のご相談を受け,実際に訴訟や労働審判,交渉において得た経験をもとに,万が一の時に「会社を守る」観点からの就業規則作成や改訂作業についてサポートをさせていただきたいと思っています。

就業規則作成の弁護士相談「お悩みの声」

Q1.就業規則の必要記載事項
就業規則といっても,どのようなことを定めたらよいのか,また,どんなことを定めなくてはいけないのでしょうか。
A.回答

就業規則には,絶対的必要記載事項(必ず記載しなければならない事項)と,相対的必要記載事項(定めをする場合には必ず記載するべき事項)というものがあります。 本当に必要最低限度の内容で就業規則を作成する場合には,以下の絶対的必要記載事項が必要となります。

<絶対的記載事項>
●始業及び就業の時刻
●休憩時間
●休日
●休暇 法律上付与が義務付けられている有給休暇,産前産後休暇,生理休暇等を記載。また,会社が任意に付与している休暇(夏季休暇,慶弔休暇等)があれば,それも記載。
●就業時転換に関する事項
●賃金決定,計算及び支払方法,賃金の締切及び支払の時期
●昇給に関する事項
●退職に関する事項(解雇の事由も含む)

<相対的記載事項>
●退職手当に関する事項
例:適用される労働者の範囲,退職手当の決定,計算及び支払の方法,退職手当の支払の時期
●臨時の賃金等及び最低賃金額  賞与や精勤手当等
●食費,作業用品その他労働者の負担に関する事項
●安全及び衛生に関する事項
●職業訓練に関する事項
●職業訓練に関する事項
●災害補償,業務外の傷病扶助に関する事項
●表彰及び制裁に関する事項
制裁の例:けん責,減給,出勤停止,降職,諭旨解雇,懲戒解雇など。
●その他労働者に適用される事項

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Q2.就業規則制定後の留意点(1)
うちの会社にも就業規則はあるし,労基署に届出もしているんだけど,総務に1冊預けてあるだけで,従業員に説明したこともないし,従業員から見せてほしいと言われたこともない。こういう感じでも,作成さえしておけば,問題にはならないでしょうか?
A.回答

就業規則を作成したら,使用者は,労働者に就業規則を「周知」させなければなりません。周知の方法についても,労働基準法規則で定められており,具体的には,

①常時各作業場の見やすい場所に掲示する
②書面で労働者に交付する
③電子的データとして記録し,かつ,各作業場に労働者がその記録の内容を常時確認できるパソコンなどの機器を設定する。
という対応をとると定められています。
※③の対応をとる場合は,全ての労働者が,常時機器の操作が出来るような権限を与えるとともに,操作方法を容易に確認できる状態にしておく必要があります。

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Q3.就業規則制定後の留意点(2)
当社では,前年度の事業実績や業界の動向に際して,こまめに就業規則を改訂していくことを考えているのですが,変更後の就業規則をきちんと従業員に周知さえさせておけば,問題は生じないでしょうか。
A.回答

就業規則とは,そもそも,その会社の労働条件の「最低基準」を定めるというものです。ですので,あらかじめ個々の労働者との労働契約で合意していた内容について,後から就業規則を作成・改訂して労働条件を引き下げる,ということは出来ません。

また,「最低基準」としての就業規則について,労働者にとって有利な方向で引き上げるのであれば問題はないのですが,労働者にとり不利益な方向で変更を行う場合には,①変更後の就業規則を労働者に「周知」させることが必要となり,かつ,②労働者の受ける不利益の程度,労働条件の変更の必要性,変更後の就業規則の内容の相当性,労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは,変更後の就業規則を事業場に適用できることになります。

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Q4.就業規則制定後の留意点(3)
事情があって,やむなく就業規則の不利益変更をしなければならない状況になったら,どのような手続きを踏めばよいのでしょうか。
A.回答

一番オーソドックスかつ確実な方法としては,①個々の労働者との間で個別合意を結んで,労働条件の変更に応じてもらうという方法です。

例えば,全ての労働者に向けて説明会を実施し,変更の影響をよく説明して理解してもらった上で,一人一人に就業規則変更に関する同意書をもらい,改定後の就業規則を実施するという流れになります。

労働者の数が多いなどの事情で,個別の同意書を取得することが難しい場合は,労働契約法10条の要件を満たすように,就業規則の変更内容が「合理的」といえる程度に収まっているかどうか,法的観点からのチェックが必要と思われます。

労働契約法10条の「合理的」といえるかどうかについては,いくつか考慮要素がありますが,特に,当該就業規則の変更がどの程度労働者に不利益を与えるのかという観点を慎重に検討する必要があります。

たとえば,賃金の引き下げを伴う変更の場合は,たとえ少額であっても労働者に相当程度の不利益を与えるものと評価されることが多いです。就業規則変更の際には,内容の合理性について,弁護士・社労士にご相談してみてください。

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