1 割増賃金の計算方法について
まずは,割増賃金の計算方法を確認します。割増賃金の額は,
に,労働基準法で定められた割増率を掛けて,割増賃金額を算出します。
未払残業代の弁護士相談「お悩みの声」
従業員に法定外残業時間が生じた場合,割増賃金の基礎となる賃金は,割増賃金の支払を要しない,通常の所定労働時間労働したときの賃金であり,労働基準法施行規則には,「家族手当,通勤手当,別居手当,子女教育手当,住宅手当,臨時に支払われた賃金,1か月を超える期間ごとに支払われる賃金」は,計算の基礎から除外されるとされています。
注意すべきは,貴社で定めた各種手当が,実質的に見て,労働基準法施行規則で除外対象とされている各種手当と同様に除外対象になるのか,という点です。
例えば,扶養の有無にかかわらず支給されている「家族手当」や,通勤距離にかかわらず支給されている「通勤手当」,一律支給となっている「住宅手当」は,除外賃金に当たらないとされています。
貴社において支払われている②家族手当③通勤手当④住宅手当の手当が,それぞれ,家族の人数や扶養の有無により支給されているか(家族手当),通勤距離や実費をもとに支給されているか(通勤手当),賃料や住宅ローンの金額にもとづいて支給されているか(住宅手当)について,今一度確認をしてみてください。
もし,労働基準法施行規則に定める除外対象とならない場合は,割増賃金の計算基礎賃金に各種手当の金額を含めることとなり,経営者が想定しているよりもずっと高い賃金単価において割増賃金の支払義務が生じるということも十分に考えられます。
場合によっては,手当の見直しや無用な手当の廃止を再検討する必要があるでしょう。
実は,次回の給与(当月分)支払時に,1名だけ法定外残業時間について割増賃金が発生する者がいるのです。当月分の法定外残業時間は,終業時刻の18時から2時間程度残業をしてもらった日が,合計で10日間ありました(合計20時間の法定外残業時間が発生)。当社のひと月における所定労働時間数は,平日週5日勤務の9時始業~18時就業(1時間休憩)ですので,160時間です。
そうなると,先程の計算式では,
=2万5000円 が,従業員に支払うべき割増賃金ということになりますよね。
そして当社は,「精勤手当」として,2万円を支払っているので,「2万5000円-2万円=5000円」で,残り5000円を支払えば,法律に従って割増賃金を支払ったことになるのですよね?
貴社の「精勤手当」が,実質的に時間外労働の対価としての性格を有しているといえるかどうかによって,結論が異なります。
いわゆる定額残業代として「●●手当」と称して一定額を支払うことを労働契約において定めている会社も,多いと思います。
ただ,従前の裁判例の集積から,定額残業代が時間外労働の対価としての性格を有すると認められるためには,ア)通常賃金部分と割増賃金部分が明確に区分されていること,イ)実質的にみて当該手当が時間外労働の対価としての性格を有していること,ウ)支給時に支給対象の時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示されていること,エ)定額残業代によってまかなわれる残業時間数を超えて残業が行われた場合には当該賃金の支払時期に精算して不足分を支払う旨の合意が存在するか,そうした取り扱いが確立していることが必要不可欠,とされています。
ア・ウについては,給与明細等に定額残業代に該当する手当について,金額の具体的根拠が明記されていることなどが必要です。
例えば,「基本給」,「通勤手当」などと並んで, 「『精勤手当』・・・2万円(法定外残業時間16時間分)」といたように,記載がなされていたとしたら,この2万円は時間外労働の対価としての性格を有すると認められやすい方向に働くでしょう。
そして,エの点では,貴社の就業規則において,「精勤手当」に対応する残業時間数を超えて残業が行われた場合には,不足額を支払う旨の合意が定められていることも必要です。
昨今,給与の支給について様々な手当を設けている企業もありますが,割増賃金の計算基礎賃金からの除外対象となるのは,労働基準法施行規則所定の手当であり,かつ「実質を伴った」支給方法がなされていなければならない点に,ご注意ください。
まず,割増賃金の支払義務について労働基準法の適用除外となる 「事業の種類にかかわらず監督・管理の地位にある者および機密の事務を取り扱う者」とは,事業経営の管理者的立場にある者またはこれと一体をなす者で,労働時間,休憩及び休日に関する規制の枠を超えて活動することが要請される重要な職務と職責を有し,勤務態様も労働時間等の規制になじまないような立場にある者に限られます。
そして,裁判例や省令においては,管理・監督者については,名称にとらわれず実態に即して判断すべきものとされています。
したがって,単に「●●部部長」といった役職名が付いているだけで,実質は他の従業員の勤務形態と変わらない職務を遂行している者や,従業員の採用など労務管理の一端を担っているだけの者については,管理・監督者とは認められず,使用者としては割増賃金の支払義務を免れません。
実際の職務内容,出退勤の裁量性,給与待遇を実質的に見た場合に,経営者と一体的な地位にあると判断される労働者は,ごく一部の上位職者に限られることを念頭に置くべきです。
この店長Bさんが,労働基準法上の「管理監督者」といえるかどうかを慎重に判断すべきと考えます。
裁判例では,管理監督者に当たるといえるためには,①職務内容,権限及び責任に照らし,労務管理を含め,企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか,②その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか否か,③給与及び一時金において,管理監督者にふさわしい待遇がされているか否かなどの諸点から判断すべき,とされています。
今回のBさんについては,従業員の新規採用時の面接に関与していたり,店舗営業の統括業務を行っていたり,社長と一緒に月次の収支などを振り返る会議に参加していたり・・・といった状況があれば,①の面では管理監督者に当たるといいやすい事実といえます。
他方,②の面で,店長Bさんが他の契約社員やパート社員と同様に,毎日店舗の営業時間に合わせて出勤・退勤し,基本的に店舗での業務のみに従事しているとなれば,それは労働時間等に対する規制になじまないものとはいえず,管理監督者に当たらない方向に働く事情といえます。
③については,待遇面の問題であり,他の従業員との間である程度の差が設けられていて,労働時間規制の適用を除外してもなお,管理監督業務に従事するにふさわしい待遇がなされている状況かどうかを,個別具体的に判断することになります。
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