インターネット上での誹謗中傷への対応について
インターネット上における誹謗中傷には主に以下のような例があります。
- 口コミサイト等で誹謗中傷を受けている
- 自分の写真を無断でインターネット上に掲載された
- 氏名・名称が勝手に使われている
このようなトラブルに遭っている場合、投稿された記事の削除を求めたり、投稿した人物を特定し、損害賠償請求をすることができるかもしれません。
シティ総合法律事務所では、インターネット上での誹謗中傷への対応に力を入れており、特に会社様、事業主様のインターネット上での誹謗中傷の対応に注力しています。
インターネット上における誹謗中傷に関するよくあるご相談事例
1 労働環境に対する投稿
会社の労働環境が劣悪であるとか、セクハラやパワハラを受けた、などとインターネット上で投稿されるケースが散見されます。
労働基準法に違反し残業代を支払っていない場合や、セクハラ、パワハラが横行していることが事実であれば、健全な労働環境とは言えませんので、速やかに改善しなければなりません。
しかし、実際には、このような投稿は事実無根である場合も多く、そのような投稿は、会社や事業主の方に不平不満を抱いた従業員や元従業員が投稿しているケースが多いです。
会社や事業主の方にとって労働環境に関する事実無根の投稿は死活問題です。労働環境に関する悪評が投稿されると、採用の際に多大な支障が生じるからです。
求職者が就職活動をする場合、まずは応募する企業の情報をインターネットで検索します。その際、「労働環境劣悪」といった口コミを目撃した場合、そのような会社は応募の対象外となってしまいます。せっかく求人を出しても、応募が少なかったり、優秀な人材が求人に応募しなくなるのです。
従業員の入れ替わりが比較的多い建設・建築業界、運送業界、飲食業界等の方は、労働環境に対する誹謗中傷を放置せず、速やかに対応すべきです。
誹謗中傷を受け、会社の社会的評価が低下する場合、名誉毀損に該当します。名誉毀損に該当する場合、投稿された記事や口コミの削除を求めたり、投稿者を特定するため、投稿者に関する情報の開示を求めるといった対応が可能です。
当事務所は、労務管理(就業規則の作成や問題のある従業員への対応等)や使用者側での労働紛争の解決に力を入れております。日頃の労務管理から労働環境に対する誹謗中傷やそのような誹謗中傷を行った従業員や元従業員への対応はお任せ下さい。
2 商品・サービスに対する誹謗中傷
顧客とトラブルになった場合に、商品の質が悪いとか、問い合わせに対する対応が酷い、などと口コミサイトに投稿されるケースがあります。
飲食店等は、肯定的な評価がいくら多くとも、わずかな否定的評価によって、お店の評判が下がる危険があります。
そのため、否定的評価がなされている投稿は直ちに削除したいところですが、否定的評価というだけでは名誉毀損は成立しません。
名誉毀損は、受忍限度を超えて社会的評価が低下する場合でなければ成立しないのです。実際に名誉毀損が成立するか否かは個別の投稿内容次第ですので、気になる方はご相談下さい。
3 会社代表者様に対する個人攻撃や会社の名称の無断使用等
会社代表者様や特定の従業員の方が、インターネット上での誹謗中傷のターゲットにされることがあります。そして、個人の写真が無断で投稿されたり、投稿された写真に誹謗中傷のコメントがさらに投稿される場合があります。
個人の容ぼうは肖像権という権利で保護されていますので、この場合には、肖像権侵害を理由に削除や投稿者の特定を求めることができます。
また、個人や会社に成りすまされる場合もあります。成りすまされているか否かは容易に判断が付きませんので、成りすましてインターネット上で投稿されてしまうと、その投稿を目撃した人は、あたかもその個人や会社が投稿したものと受け止めます。
このような成りすましのケースは、悪意を持ってなされることが多く、しかも投稿された内容は広くインターネット上に公開されるため、取返しの付かない事態になりかねません。
例えば、会社の名称を勝手に名乗り、その会社又は代表者に成りすまして人種差別する内容をインターネット上で投稿されたとします。そうすると、その投稿を目撃した人は、当該会社又はその会社の代表者は、人種差別をする人なのだろうと判断しますし、会社の評判も下がります。既存のお客様や取引相手がその投稿を目撃したり、周囲から聞かされた場合、取引を解消されてしまうかもしれません。また、これから取引しようと思っていた取引相手が取引をやめてしまう可能性もあります。
このような場合、氏名権の侵害に該当しますので、投稿の削除や投稿した人物を特定するため情報の開示を求めることが可能です。
権利侵害への対応
誹謗中傷を受けた場合、名誉毀損に該当する可能性があります(名誉権の侵害)。また、勝手に写真を使われた場合には肖像権侵害、名前を勝手に使われた場合には氏名権の侵害に該当する可能性があります。
このように自分の権利が侵害された場合、 ①投稿した人物の特定(発信者情報開示) ②投稿された記事の削除 を求めることができます。①と②の両方を求めることも可能です。さらに、投稿した人物を特定した場合、その人物に対し損害賠償請求することもできます。
発信者情報開示請求
インターネット上で権利を侵害された場合、投稿した人物を特定するため、発信者情報の開示を求めることが可能です。この場合、原則として、①コンテンツプロバイダに対する請求と②インターネットサービスプロバイダ(ISP)に対する請求という2段階の法的手続きが必要です。
第1段階の請求の相手であるコンテンツプロバイダは、例えばGooglemap、Facebook、2チャンネルなど、特定のコンテンツを提供している事業者です。
コンテンツプロバイダへの請求の方法は、裁判外で請求する方法と仮処分という裁判上の手続きを使う場合があります。通常、仮処分を選択します。
コンテンツプロバイダは、実際に投稿した人物に関する情報を保有していないことが大半です。そのため、コンテンツプロバイダに対しては、投稿に用いられたIPアドレス等の開示を求めます。
コンテンツプロバイダからIPアドレス等の開示を受けることができた場合、IPアドレスから投稿に用いられたISPを特定します。
ISPが判明したら第2段階の手続きに移ります。第2段階では、ISPに対し、投稿された日時に当該IPアドレスが割り当てられていた契約者に関する情報の開示を請求します。
ISPに対する請求も裁判外での請求と裁判上の手続がありますが、ISPは、契約者に関する個人情報は本人の同意がない限り原則開示できないため、法的手続きを選択します。
訴訟を選択することが一般的です。
ところで、ISPは、IPアドレス等のアクセスログを3~6か月程度しか保存していないと言われてします。ISPへの請求は訴訟を選択することが一般的ですが、訴訟をしている間に、投稿されてから3~6か月が経過します。そうすると、アクセスログが消去されてしまいます。
そこで、アクセスログの消去を防ぐため、ISPに対する訴訟提起前に、ISPに対し、発信者情報消去禁止仮処分を行う場合もあります。
実施には、ISPに対し、訴訟提起前に通知を出し、アクセスログの保存を依頼すると、多くのISP業者はアクセスログの保存に応じてくれますので、発信者情報消去禁止仮処分まで行うケースは稀です。
ISPに対する訴訟で勝訴すると、当該投稿がなされた日時に、当該IPアドレスが割り当てられていた契約者に関する情報が開示されます。その後は、開示された情報を基に損害賠償請求を行います。
なお、発信者情報が開示されたとしても、投稿した人物を特定できない場合があります。例えば、フリーWi-Fiやインターネットカフェから投稿された場合です。このような場合には、契約者の情報が判明したとしても、実際に誰が投稿したのかまでは突き止めることができません。
削除請求
権利の侵害を受けた場合(人格権侵害に限ります)、当該投稿の削除を求めることができます。
削除請求は、投稿者又は当該ウェブサイトの管理者やサーバーを提供しているサーバー管理者に対して行います。
削除請求の方法は、裁判外で請求する方法と仮処分を申し立てる方法があります。
削除請求の場合、当該ウェブサイトの規約に違反する場合や、運営ポリシーに反する場合には、裁判外の請求でも削除に応じてもらえることがあります。一般的には、個人のプライバシーに関する情報の場合には削除してもらえるケースが多いです。
任意に削除されない場合には、投稿記事削除仮処分申立てを行います。なお、削除の場合には、発信者情報開示請求と異なり、2段階の手続きは必要ありません。
インターネット上での権利侵害対応Q&A
掲示板や匿名での口コミサイトなど、投稿した人物がわからない場合や、投稿した人物による削除が期待できない場合には、ウェブサイトの管理者や運営者に対し削除を請求します。
次に、投稿者以外に請求する場合(サイトの管理者や運営者等)、削除に応じるか否かはサイトの管理者や運営者の判断次第です。ウェブサイトによっては、個人のプライバシー侵害であることが明らかな場合等、一定の場合には削除に応じてくれる場合があります。また、利用規約やポリシーに違反する場合も削除に応じてもらえます。
しかし、ウェブサイトの管理者や運営者は投稿者ではないので、権利侵害の判断が難しい場合には、削除には応じてもらえません。
名誉権の侵害は、名誉毀損と名誉感情の侵害があります。名誉毀損は、具体的な事実を適示され、社会的評価が低下する場合に成立します。名誉感情は、具体的な事実適示を伴わない場合です。例えば、「バカ」、「アホ」などといった侮辱を受けた場合です。
プライバシー権は、
①私生活上の事実であり、
②公開してほしくないと思われる内容で、かつ
③未だ知られていない事実をみだりに公開されない権利です。
この要件を満たす場合プライバシー侵害となります。
肖像権は、みだりに自分の容貌を写真に撮影されたり、その写真を公表されない権利です。
氏名権は、氏名を他人に冒用されない権利です。
手続きは、仮処分申立書の作成し裁判所に提出します。その後、審尋期日が開かれ、裁判所が双方の意見を聞きます。そして、仮処分を認める場合、裁判所は必要な担保金の供託を命じるので、法務局に担保金を供託します。
投稿記事の削除の場合、担保金は30万円が相場です。担保金を供託すると仮処分命令が発令されます。
仮処分命令が発令されるとほとんどの相手は投稿記事の削除に応じます。
また、仮処分が発令される際に担保金として原則30万円を法務局に供託する必要があります。
記事の削除を命じる仮処分が発令された場合、報酬金として22万円(税込)が発生します。
なお、債務者が海外企業の場合には、申立書を翻訳する必要がありますので、翻訳費用が別途発生します。
また、海外に書類を送達する必要があるため、国内の業者を相手にする場合よりも実費が多くかかります。
翻訳費用は、文字数で異なりますが、おおむね5万円~10万円程度です。
また、海外企業を相手に申立てをする場合、海外から登記簿を取得する必要があります。
当事務所では代行業者に依頼しており、複数の代行業者がいますが、数千円から数万円の費用が追加で発生します。
訴訟提起する場合、着手金は税込33万円(交渉から継続する場合には差額の16万5000円(税込)の支払いが必要)、報酬金は回収額の16%です(最低でも27万5000円(税込)の報酬金が発生します)。
発信者情報開示の場合、原則として2段階の手続きが必要で、しかも弁護士に依頼する必要があります。
そこで、弁護士に依頼した際の費用も調査費用として認められることがあります。
ただし、弁護士費用を調査費用として認める裁判例と否定する裁判例があり、必ず請求が認められるわけではありません。
また、全額認めてもらえる場合と一部しか認められない場合があります。
そのため、発信者情報開示及びその後の賠償請求は費用倒れとなる可能性があります。
個人の方の場合30万~100万くらい、法人の場合には50万円くらい(法人は慰謝料ではなく無形損害)が相場だと言われています。
なお、訴訟をせずに裁判外で和解する場合には、この相場を下回る場合もありますが、相場以上で和解できる場合もあります。
具体的には①慰謝料(法人の場合には無形損害)、②調査費用、③弁護士費用を請求できます。
また、名誉毀損は犯罪でもあるので(刑法230条)、告訴し、捜査機関に処罰を求めることも可能です。
報酬金については、第1段階ではIPアドレスとタイムスタンプ等の開示を命じる仮処分が発令された時点で報酬金が発生します。
例えば、IPアドレスとタイムスタンプは開示されたものの、その後、ISPに対し第2段階の請求をしたところ、アクセスログの保存期間が経過しており、結果として発信者情報を特定できないとしても、第1段階での報酬金及び第2段階の着手金も発生します(第2段階の報酬金は発生しません)。
第2段階では発信者の契約情報を開示する旨の判決が出た時点で報酬金が発生します。
例えば、第2段階の請求で、契約者に関する情報が開示されたものの、インターネットカフェからの投稿であるなど、最終的に発信者の特定ができない場合であっても、契約者に関する情報は開示されていますので、報酬金が発生します。
次に、第2段階の訴訟の際、着手金として33万円(税込)が掛かります。また、発信者情報の開示がなされた時点で報酬金として22万円(税込)が掛かります。
第2段階訴訟の前に、ISPに対し発信者情報消去禁止仮処分を行う必要がある場合には、別途着手金として、16万5000円(税込)かかります(発信者情報消去禁止仮処分に関する報酬金は発生しません)。
なお、第1段階において、仮処分命令が発令される際に担保金が別途必要です。削除請求の場合担保金の相場は30万円でしたが、発信者情報開示の場合は10万円が相場です。
例えば、海外法人を相手に仮処分を申し立てる場合、債権者(発信者情報の開示開示や削除を求める側)の住所が東京以外の場合、発信者情報開示仮処分と削除仮処分の管轄が異なりますので、同時に申立てをすることはできません。
ご依頼者様の本店所在地や住所が北海道の場合、発信者情報開示と削除を同時に請求することはできません。
債務者が海外法人の場合で、かつ日本国内に主たる事務所、主たる営業担当者を置いていない場合、東京地裁が管轄裁判所となります。海外法人のほとんどは日本国内に主たる事務所、主たる営業担当者を置いていないため、海外法人相手の場合には東京地裁が管轄となります。
第2段階の訴訟も原則として第1段階と同様です。ただし、第2段階のISPに対する請求の場合、ほかの請求を組み合わせることで、債権者の住所・所在地で訴訟提起できる場合があります。
第1段階の仮処分は申立てから発令まで1~2か月程度かかりますので、投稿がなされてから1か月以内を目途に仮処分申立てを行わないと発信者の特定ができないケースがあります。
アクセスログがどの程度保存されているかは、実際にISPが判明し、かつISPに対して請求しないとわかりませんので、申立前の段階で判断できません。