1 セクハラ・パワハラの問題
セクハラ・パワハラは,従業員を雇っている会社・事業主であれば,いつ問題が発生してもおかしくない問題です。従業員間において発生したハラスメントに対し,適切な対処を怠ると,従業員間のトラブルによって会社にとって貴重な人材が流出したり,会社側が労働環境の整備義務を果たさなかったものとして使用者責任を追及される事態にも発展しうるものです。
まずは,経営者・管理者である立場の方々が,正しくハラスメントの知識を持つこと,そしてハラスメント防止対策を事業主体に向けて実施していくことが大切です。
ハラスメント(セクハラ・パワハラ)の弁護士相談「お悩みの声」
セクハラについては,雇用機会均等法第11条1項と厚生労働省の告示の内容から,定義づけられることが多いです。 具体的には,「職場において行われる性的な言動に対する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け,又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること」を,職場におけるセクシュアルハラスメント(セクハラ),といいます。
着目すべき点は,単に性的な言動があっただけでなく,労働者がその労働条件について不利益を受けたり,就業環境が害されたといえる場合ではなければならないということです。
性的な内容を含むジョークを言っただけでセクハラと認定されるというものではなく,そのジョークでもって不快な思いをした労働者が存在し,その就業環境が害されたかどうかによって,セクハラと認定されるということです。
裁判例(名古屋高裁金沢支判平成8年10月30日)においても、加害行為の態様、加害行為者の職務上の地位や年齢、被害女性の年齢、婚姻歴の有無、加害者及び被害者のそれまでの関係や、セクハラが行われた場所、当該セクハラの継続性、被害者の対応等から、「社会的見地から不相当とされる程度」に至った場合に、不法行為としてのセクハラが成立するとされています。
A2)パワハラについては,厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ(WG)」が定義を示しています。そこでは,「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」とされています。
具体的な行為類型でいうと,
①暴行・傷害,
②脅迫・名誉毀損等,
③無視・仲間外し,
④業務上不要なことの強制,仕事の妨害,
⑤業務の合理性なく,能力・経験とかけ離れた仕事を命じること等,
⑥私的な事項に過度に立ち入ること,などです。
パワハラについても,単に上下関係のもとで厳しい指導があったというだけでパワハラが認定されるものではなく,あくまで労働者に精神的・身体的苦痛を与えるもの,職場環境を悪化させるものと認められることが必要になります。
ハラスメント行為を受けた人(便宜上,「被害者」と呼びます。)は,これを行った人(加害者)に対して,民法上の「不法行為」(民法709条)に該当するとして,損害賠償請求をすることができます。この時,被害者は,加害者個人に対してだけではなく,加害者の雇用主体である会社・事業主に対しても,「使用者責任」(民法715条)にもとづいて,加害者に求めるのと同じ内容で損害賠償請求をすることが出来ます。
また,被害者は,使用者だけに責任を追及することも出来ます。 使用者は,労働者がハラスメントを受けることなく,良好な環境で終了できる環境を整備する義務を負っています。裁判例を参照すると,「職場環境整備義務」とか「安全配慮義務」という名前で説明がされることが多いです。
要は,名前ではなく使用者が負っている義務内容が重要で,そもそもハラスメント行為を職場で起こさせない体制を築くための義務や,被害者に配慮する義務,被害者による被害申告後の事後調査義務,問題発生後の勤務環境の改善義務も含まれます。
ですので,使用者たる事業主には、「従業員同士で起こっていることなので,何も知らなかった」という言い訳は通用しないということです。
よくセクハラの典型例として挙げられるものとして,
①恋人の有無や,交際関係が上手くいっているかどうか等のプライベートな話を,本人が嫌がっているのに聴きだそうとすること,
②従業員の容姿(顔の作りや身体的特徴)について,評価を述べること(良い評価でも悪い評価でも,従業員自身が不快な思いを生じる場合があります。),
③従業員本人を前にして,当人の容姿ではなく,第三者の容姿等について性的な言動を述べること(「●●という芸能人の体つきがいやらしい」,「**となら性交渉をしてみたい」といった発言をするなど。),
④業務時間外の飲み会等で,席次が特に決まっていないにもかかわらず,上司が部下に隣の席に座るように命ずること,などがあげられます。
繰返しになりますが,例示した①~④の行為をしただけで,セクハラが認定されるというものではなく,これらの行動等を契機として,従業員の労働条件に不利益が生じたり,就業環境が害されたといえるかどうかが問題になります。
パワハラについては,業務指導の一環を越えて,従業員の名誉を棄損したり,従業員の自己決定の自由を侵害した場合には,ハラスメント行為として民法上の不法行為に当たると評価される場合があります。
例えば,上司が部下に対し叱責した際に,それが私的な感情から出た嫌がらせとまでいえるかどうかは,どういった理由で当該言動が行われたのか(営業成績の不振といったような,業務上の指導を行う根拠になるべき事実が明確にあるのか,ないのか。)指導としてどのような言葉の表現を用いて行われたのか,指導方法(口頭かメールか、その頻度など)によって、個別具体的に判断されます。
例えば、業務成績が思わしくない部下に対し、上司が「役立たず。やる気がないなら、会社を辞めてしまえばいい!」といったメールを送った場合を考えると、「役立たず」という表現を使った根拠となる事象が、その他の証拠で表れているのであれば、あくまで「指導の一環」として判断される可能性があります。(※例えば、過去のメールや業務報告書などから、当該部下に業務上深刻なミスが続いていたことが発覚するなど。
他方で、もし上司が「役立たず、辞めてしまえ」というメールを毎日のように送り付け、「辞めてしまえ」という部分を太字でフォントを大きくして目立つように強調していた上、連日そのようなメールを送り続けるほどの業務上の問題点もなかったとなれば、業務上の指導を超えて、私的感情から出た嫌がらせに当たると評価する可能性があります。
従業員に対する研修を定期的に実施し、その中でセクハラ・パワハラに関する事例紹介を行い、どのような行為がハラスメントと評価されうるのか、その結果、最終的にどのような責任追及がなされることとなるのかについて、説明をする機会を設けることが重要と考えます。
また、従業員全員をこうした研修に参加させることが本来的には望ましいですが、少なくとも、現在の組織の中で個々の従業員からの話を吸い上げる立場にいる方にはもれなく参加してもらうことをおすすめします。一従業員の被害申告について、十分な社内調査も聴き取りも行わないまま、ある従業員について懲戒処分を行ってしまったり、逆に、会社の上部を巻き込むほどのことではないとして、適切な対処がなされないままになってしまって、気が付けば使用者が法的責任を問われる事態になってしまうと、使用者側のリスク回避にはつながりませんので、定期的に従業員対する啓蒙を行うことをお勧めします。
これは、事業主が雇用管理上行うべき対策として、すぐに実践していただきたいところです。 1つ目は、事業主としてハラスメントに関する指針を従業員に示すことです。
例えば、就業規則や服務規律の中で、ハラスメント対象行為をいくつかの類型に分けて列挙し、これらに該当するハラスメント行為を行った従業員については、「就業規則第●条●項にしたがって、懲戒処分を行う。」…などといった形で、使用者側がハラスメント行為に対してどのような対処をするつもりであるのか、明記しておくことが重要です。
もし「現状の就業規則や服務規律では、十分なハラスメント対応措置になっているのか不安である」、「ハラスメント対策には力を入れたいが、どのようなひな形を使えばよいのか相談したい」という事業主の方は、是非ご相談ください。当法人では、札幌オフィス・東京オフィスともに、社会保険労務士として登録済みの弁護士が所属しており、弁護士業務の中での紛争対応経験を踏まえて、就業規則や各種規律事項を作成・整備いたします。
2つ目は、ハラスメントに関する指針を就業規則等に明記したところで、従業員への周知・啓発ができていなければ、ハラスメント防止は絵に描いた餅になってしまいます。少なくとも管理・監督者に当たる従業員レベルにおいては、就業規則・服務規律の内容説明を定期的に行うことが必要です。
3つ目は、規律面の制定だけではなく、従業員の相談窓口を設置することも必要です。小さな規模の会社であっても、「ハラスメントに関する相談は誰々が受けつけることになっている」ということをきちんと従業員に周知させる必要があります。
まずは、申告者の事情聴取、周辺の関係者の事情聴取を迅速に行い、事実関係の把握をできる限り早期に行うことです。
申告者だけの言い分を聞いてこれを鵜呑みにし、客観的な状況が見えない中で、ハラスメントを行ったと思われる従業員に懲戒処分をしてしまったとなれば、かえって使用者側が不当な懲戒処分であることを理由に被処分者から責任追及される流れにもなりかねません。
基本的には、ハラスメントの問題が生じたときに、できる限り早く弁護士に相談していただきたいと思います。
使用者側の判断で、速やかに問題解決を図ろうとして動いたことが、後になって裁判上不利に働いたり、無用な紛争を引き起こしてしまったりということがあります。たとえば、調査不十分のまま加害従業員に不当な懲戒処分を行ってしまったり、被害申告を受けたときの対応の不手際について後になって指摘されたりするおそれが生じます。
また、証拠保全という観点からは、ハラスメント行為の裏付けとなる証拠として重要な意味を持つ「当事者や周辺関係者の証言」を、各人の記憶の新しいうちにしっかりと確保しておく必要があります。人の記憶は時間の経過により簡単に失われてしまいますから、ハラスメント対策を講じる弁護士としても、貴重な証拠が残っているうちに保全しておきたいと考えています。
さらに、「第三者的」な立場にある弁護士をハラスメントの事実調査に関与させること自体が、従業員(加害者側・被害者側を含む)との信頼関係の形成につながり、紛争の拡大・長期化の防止につながることもあります。つまりは、事業主がどちらかの肩を持つような状況を作らず、弁護士がフラットな視点で適切に調査し、その調査結果に基づいた対応を行うこと、そして問題の所在にフィットした環境調整と今後の予防策を講じることで、被害従業員からの訴訟提起自体を回避して、和解など解決ができる可能性も高まります。
会社側の労働問題・労務に関わる相談は全般的に対応可能です。
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